熱化学を使って世界史における製鉄を考える
最近、化学を勉強し直しており、特に熱化学に重点を置いている。その過程で、ギブスエネルギー、エンタルピー、エントロピーに対する理解が深まった。この知識を用いることで、世界史上の製鉄技術についても新たな視点から再考できるようになった。
世界史における鉄といえば、古代メソポタミアにおいてヒッタイトが鉄器を用いて軍事的優位を築いたことや、近代の産業革命期にイギリスが製鉄技術で経済的優位に立ったことが思い浮かぶ。これらは時代が大きく異なるが、熱化学的観点から見ると、両者の製鉄法を比較することが可能である。
ヒッタイトの製鉄法はいわば古代製鉄であり、イギリスの製鉄は近代製鉄と呼べる。両者はいずれも鉄鉱石と炭を用いて鉄を得るという点では共通しているが、その反応条件、とりわけ温度条件には決定的な違いがある。
古代製鉄では、炉の温度がせいぜい約800℃程度であったため、鉄を溶融させることなく、固体のまま還元されたスポンジ状の鉄を得ていた。このため、得られた鉄は炭素含有量が低く、性質としては自然状態の鉄に近いものであり、剛性を増すため後から炭素を加える工程が必要であった。
これに対し、近代の製鉄では炉の温度が約1700℃以上に達し、鉄を溶融した状態で還元することが可能となった。その結果、溶融鉄には炭素が多く溶け込み、強度を増すため後から炭素を除去する工程が不可欠となっている。
古代製鉄では低炭素の鉄を作ってから炭素を追加し、近代製鉄では高炭素の鉄を作ってから炭素を除去するというところが決定的に異なるのである。

